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サブスク時代のヒットの法則  /  対談 with 梶望 #1

THECOO 株式会社代表の 平良 真人( @TylerMasato ) の対談シリーズ。今回のお相手は、宇多田ヒカルさんなど数々のアーティスト宣伝プロデュースを担当されてきた、梶望さん。

梶 望(かじ・のぞむ)
ソニー・ミュージックレーベルズ 第3レーベルグループ エピックレコードジャパン オフィスRIA制作部 部長  兼 ソニー・ミュージックエンタテインメント SDグループオーディション部 プロデューサー 兼 事業戦略グループ事業戦略チーム チーフマネージャー。
1995年(現)日本コロムビア入社。1996年(当時)東芝EMI入社(その後、EMI MUSIC JAPANへ社名変更。ユニバーサル ミュージック合同会社に吸収合併)。宇多田ヒカル、AI、今井美樹、MIYAVI、GLIM SPANKYなどの宣伝プロデュースを担当。2017年、宇多田ヒカルのレーベル移籍に伴い、ソニー・ミュージックレーベルズに入社。

サブスクリプションの拡大など急速に変化する音楽マーケットに伴って、マーケティング方法はどう変化していくべきか。これからのアーティストプロモーションに関してお話を伺います。

“買ってもらう”から”聴かせる”へ マーケットの変化の時

平良真人( 以下、平良 ):
これだけエンタメコンテンツがある中で、新人のアーティストを売る時に、どういう風にプロモーションを考えていくんですか?大事にしていることを伺えればなと思ったのですが

梶望氏( 以下、梶氏):
世界の音楽マーケットの広がりに今 1 番牽引しているのがサブスクリプションで、それによって全世界の売上は伸びています。

サブスクリプションになって何が変わったかというと、今まで我々のやっていた音楽マーケティングの考え方は、買わせるマーケティングなんですよ。極端に言うと、音楽をあまり聞いてくれなくても、封入特典、握手券、イベント参加券、CDジャケット違いなどで、1 枚でも多く買ってもらう。買ってもらえさえすればビジネスが成り立つというのが我々のマーケティングのやり方だったわけです。

リリースが決まってから発売前にプロモーションをどれだけ厚くするかを考え、リリースまでにザワザワとした空気を作っていき、発売前にはテレビにいっぱい出して、そうして発売日を迎えることで、オリコンの初週ランキングで 100 万枚セールス。「 よし、これで刈り取り終了!次! 」みたいな、そんな狩猟的なスタイルだったんですよね。そこからある程度は曲のトレンドが続いたりはするけど、すぐにピークアウトするから、最初の1週間ないし長くても 1 ヶ月の間でどれだけ刈り取るかにかかっている。要するに収穫期がものすごく短かったんですよね。

これがサブスクリプションになると、” 聴かせるマーケティング ”になるんです。つまり、今までは買ってもらえさえすればお金は入ってきたんですけど、これからは、僕らはレコーディングカンパニーなので、原盤への対価を払ってもらうためには、聴いてもらわないといけないんですよ。1 回聴いてもらってチャリン、1 回聴いてもらってチャリンなので。
そうすると、音源のリリースがされてない時に仕込むと、対価を支払ってもらう前にお終いになってしまう。” 聴かせる ”サブスクリクションというサービスは、CDよりも単価が全然低いわけですよ。だから一瞬の刈り取りだけじゃビジネスとしてはダメで、寧ろどれだけ長く聴いてもらえるかがすごく大事なんですよね。末永く曲が愛されて、10 年 20 年もしかしたら 50 年かけて何千万回、何億回聞いてもらう。長い時間をかけて回収していくということがビジネスになっていくので、マネタイズの概念が全然違うことをまず正しく理解しないといけないんですよ。

今まで通り、とにかくプロモーションして初期に沢山買ってもらって、ハイ次!みたいな事をやっていると、負のスパイラルに陥ってしまう可能性があって。本当に愛される曲、愛されるコンテンツと環境をどれだけ多く作るかがすごく大事ということをまず最初に知らなくてはいけないと思うんですよね。

プレイリストよりお気に入りの数がヒットの勝因

梶氏:
そうすると、” 聴かせる ”マーケティングの勝ち筋はなんなのかという話しになってくると思うんですけど、今年の頭に宇多田ヒカルが、『 キングダム ハーツIII 』の主題歌で『 Face My Fears 』という曲をリリースしたんです。このゲームは今『ファイナルファンタジー』にも負けないくらい世界的人気のゲームで、そのテーマソングということでたくさんのデータが集まって、そのデータを見ているうちになんとなく勝ち筋が見えたんです。

なにかと言うと、この曲、圧倒的に海外の方がサブスクリプションは聴かれているんですよ。Spotify に関しては日本の 10 倍以上USで聴かれているし、Apple Music でも 2 倍は聴かれている状況です。そもそもの日本国内と海外とのユーザー数の違いもあるんですけど、それ以上に大事なことがあって、実は日本と海外では聴かれ方が全然違うんですよ。

Spotify の例を挙げると、ユーザーのデータを見た時に、日本のヒット曲はプレイリストで聞かれている数が圧倒的に多い傾向があるんですけど、洋楽のヒットチャートのヒット曲のデータとしては、プレイリストよりも”お気に入り”に入れてもらった数の方が多くなるんです。逆に言うとそういう図にならないとヒットにならない。

実は、今 ” プレイリストマーケティング ”とかよく言われているんですけど、海外のレーベルの人間とやり取りしていると、「 プレイリストも大事だけど、とにかくお気に入りに入れさせる策を打ちたい 」みたいなことをしきりに言われていたんです。最初は何を言われているのかよく意味が分かっていなかったんですけど、『 Face My Fears 』という楽曲は、お気に入りに入れてもらってロイヤリティの高いファンに何回も何回も聞いてもらうことが出来て、宇多田ヒカルとしては初めてUSのビルボードでトップ 100 に入ったんです。それはUSのリスナーにお気に入りに入れてもらう数が多かったということが勝因だったわけです。
逆に言うと、プレイリストの占める割合が大きいことが、今の日本に置けるサブスクリクションがまだ浸透していない証拠でもあり、サブスク型ヒットがなかなか一般的になっていないところでもあると思います。

弊社のアーティストでも最近人気のある King Gnu とか、新人アーティストではサブスク型ヒットが出てきているんですけど、その人達に関しては、” お気に入り ”に入れてもらった数が多い傾向にあります。King Gnu もまさにそうで、彼らはドラマのタイアップで認知が広がったけど、ファン基盤がしっかりしているので、タイアップ以外の楽曲やアルバム楽曲も相乗的によく聴かれるんですよね。結局そういう部分も含めて、これからはいかに” お気に入り ”の数を増やすかが大事になってくると思うんです。

今回の宇多田ヒカルの例で言うと、” お気に入り ”に入れている人が本来の宇多田ヒカルのロイヤリティの高いお客さんなのかと言ったらそれだけではなくて、「 キングダムハーツ 」だったり、スクリレックス だったり、いろんな要素があるところではあるので一概には言えないんですけど、でもいろんな要素が重なって” お気に入り ”に入れられる数が多くなって海外でのヒットに繋がったということだけは間違いんですよね。

他の洋楽のアーティストとかも、例えば今海外で売れている カミラ・カベロとかいろんな洋楽のアーティストのデータも見るんですが、海外のアーティストだと本当に” お気に入り ”に入っている数が多いアーティストが、ビルボードの上位に上がってくる。日本でもサブスクでヒットを出している、あいみょん とか Official髭男dism だったりは、おそらくお気に入りされている数が多いんだと思います。

今までは広く浅くプロモーションしていても動いたものが、今後は狭くてもロイヤリティの高いお客さんを囲い込んで、ものすごく深くちゃんと音楽を届けていくという作業をやっていかないと、これからはきっとヒット曲が生まれないんだろうなと。
ただネタとして消費されてしまうような音楽もあるので一概には言えないんですけど、僕が得意とするアーティストは末永く愛されることを目標とするのであれば、より深く長く愛されるような楽曲とマーケティングをやり続けていくことが必要なんじゃないかと思っています。

世界から見る日本のマーケットの今後

梶氏:
宇多田ヒカルもビルボードのトップ 100 に今回初めて入ったんですけど、それってピコ太郎以来の快挙でして。ピコ太郎以前になると YMO などの 80 年代以前の話になってしまってて、ここ数年日本人アーティストは全く入れていないんですよね。それくらい日本の音楽シーンって今ガラパゴス化しちゃってて、HIPHOP中心の世界のトレンドとも乖離しちゃっています。
あの台湾ですら、今の若者の間では J-POP の楽曲ヒットはないですね。ライブはそこそこ入るんですけど、楽曲となると K-POP や地元のアーティストがヒットしている。これは日本のアーティストが、国内で需要と供給のバランスが取れてしまっていたが故に、国内だけですべてを完結してしまっていた弊害で。そんなことをしている間にK-POPのアーティストが台湾に来てハグしてハイタッチしてコミュニケーションを深めて、いつの間にかシーンを作ってしまったんですね。30 代 40 代以降の人であれば、台湾でも未だに 宇多田ヒカル のファンとか、ミスチル なども含めてシーンはあるんですけど、なんとなく肌感でいうと、平井堅 あたりの年代で楽曲ヒットは止まっているなという感じです。

平良:
僕は、音楽・ロックファンとしてサブスクはめちゃくちゃ使っていて、データー容量 256 GB 中の 240 GB が音楽なんですね。それくらいアーティストごとに登録しているからプレイリストは聞かないんですよ。結構衝撃だったのが日本人ってそんなにプレイリスト聞くんだと。今聞いたお話の仮説でいくと、音楽が大好きで、好きなアーティストがいてという僕みたいなファンは少ないって事なんですか?

梶氏:
いや、まだ日本人がサブスクの正しい聴き方が出来ていないだけだと思ってはいます。本当に音楽が好きな人しかまだサブスクを利用していないということもあるのかなと。あとは、特に 40 代以上くらいの方々にはまだCDも売れるわけで、「所有する意識」の高い人達が多いのかなと思っています。
それも全てまだサブスクのマーケットがこの国においては成熟していないからだと僕は思ってはいるんですけどね。とは言え、聞いた話しではあるのですが、去年で世界のサブスク市場は踊り場に来ていて、ポテンシャルがあるのは日本とドイツだけと言われているんですよね。以前聞いた話では、日本のマーケットはドイツの今のマーケットの 3 年後と言われていて、それが本当なら日本もあと 3 年後くらいにサブスクが伸びてくるのかなと。日本はまだ若い子たちにも有料のサービスは浸透しきっていないんですよね…

平良:少ないですよね。

若者世代の経済事情と共に変化するマーケット

梶氏:
若い子達は LINE MUSIC とか国内のサービスも使っていたりしますけど、個人的に海外のサービスが日本に入ってくるときに 1 番のバイアスになっているのは、クレジットカード課金のカルチャーだと思っていて。日本の子供にはクレジットカード(ファミリーカード)カルチャーが無いじゃないですか。それこそガラケーの時代には、子供にクレジットカードを持たせないけどキャリア決済はOK、みたいなよく分からない図式が出来ていて。キャリア課金が盛大に行われていた時代とか多分みんなもう忘れかけているんですけど、その後何が起こったかというと、スマートフォンがシェアを伸ばして、子供たちにも iPhone が広がった。でも彼らはクレジットカードを使えないから iTunes でなにも買えなかった。その彼らが成長して可処分所得を持った時に初めて iTunes がグッと伸びたんですよね。それで レコチョク とシェアを争うまでに来たわけです。当時は 着うた®、着うたフル® がほぼほぼ市場の 8 割以上を占めていたのが、iTunes があれよあれよとシェアを伸ばしていった。

何が言いたいかというと、今の若い子達は概念がクラウドなんですよね。違法ダウンロードですら「 ストレージがもったいないからやりません 」だし、違法アプリとかでも聴いたりするけど、でも無料wi-fi のところじゃないとパケ死するからパケットでは聴かない。「 どんだけ金ないんだよ! 」って話になっているんですよ。概念としてはお金は取れないんですけど、完全にクラウド化されているので、彼らがちゃんと働き始めて可処分所得が出来てクレジットカードを持ち始めたら、僕はあっという間に世の中のサービスがすべてクラウド化される気がしていて、おそらくそれまであと 2 年くらいかかるんじゃないかなって(笑)。

平良:
僕らの fanicon もサブスクで、若い子達が少しづつですが入会してるんですよ!なので、僕は仰っていることがすごくピンと来ていて。

梶氏:
そうなってくるといよいよだと思いますよ。先ほども言ったように、宇多田ヒカルだけじゃなくて新人の事例としてお気に入りの数の多さに比例したヒット曲も出てきているというのは、既に一部の若い世代のロイヤリティの高い子達がクレジットカード決済で何回も何回も聞いている感じだと思うので、これからどんどん進むんじゃないですかね。今はサブスクに関しては我慢の時期というか、まだまだ黎明期みたいなところにあって、ここからが面白くなってくるんじゃないかなと思っています。

つづく。

編集・構成 / 赤塚えり



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